ポイント4 服務規律

 服務規律は、就業規則において職場内の規律を保持する大切な規定であり、労働条件を定める条項と並んで重要な柱の一つとなります。

 労働基準法に基づく記載事項の性格としては、相対的必要記載事項(定めをする場合には記載しなければならない事項)です。

 労働者は、会社と労働契約を締結することにより、労務提供義務を負うとともにこれに付随して、

  1. 職務専念義務(就業時間中は職務にのみ従事し他の活動は行わないこと)
  2. 企業秩序遵守義務(就業時間中は施設の内外を問わず企業の正当な利益を侵害してはならないこと)
  3. 使用者の施設管理権に服する義務(企業の施設内では使用者の定める施設管理に関する規則に従うこと)

を負うものとされています。よって、就業規則には、これらの義務を具体的に服務心得、訓辞事項、禁止事項などに区分して記載することになります。

 服務に関する基本的な心得や一般的に遵守すべき基本原則は、業種・業態に応じて、また、その企業の労務管理の考え方により、一定の範囲のものを職員にわかりやすく規定しておくことが必要です。

 特に企業が重要な服務規律と考えた事項は、単独条文として独立に記載したり、就業規則の記載と併せてルールブックやマニュアル化をして、別規程にして詳細を定めることもあります。

 例えば、「セクシャルハラスメント防止規程」や「秘密保持規程」、「個人情報保護規程」、「競業禁止規程」などです。

 なお、服務規律の規定違反行為は、懲戒処分の対象とすることができますが、具体的な処分内容は、就業規則の懲戒・制裁の条項に従って行うことになります。

 

<規程例>

第〇条(セクシャルハラスメントの禁止)

 職員は、他人の職務を妨害し、または職場の風紀秩序を乱す行為をしてはならない。

2.他の職員の業務に支障を与えるような性的関心を示したり、性的な行為をしてはならない。

3.むやみに他の職員の身体に接触したりすることや職場での性的な言動によって不快な思いをさせるようなことをしてはならない。

4.他の職員に対し、職務上の地位を利用して、交際を強要したり、性的関係を強要してはならない。

 

第〇条(秘密保持)

 職員は、会社の業務上の機密事項及び会社の不利益となるような事項を他に漏らしてはならない。

 

ポイント5 懲戒

 「懲戒」とは、企業秩序や職場の規律を維持するため、それに違反した者に対して課する秩序罰の制度で「制裁」ともいいます。

 就業規則において懲戒に関する事項を定めるにあたっては、

①対象事由

②種類及び程度

③手続き

について具体的に記載しなければなりません。

ただなんでもかんでも定めればよいかというものでもなく、法令または公序良俗に反するものであってはなりません。

 懲戒の種類としては、一般的に軽い順から「けん責」「減給」「出勤停止」「降格・降給」「諭旨解雇」「懲戒解雇」等があります。

 

<規程例>

第〇条 (懲戒の種類及び程度)

懲戒の種類及び程度は、次の各号のとおりとする。

  1. けん責:始末書をとり将来を戒める。
  2. 減給:将来を戒め、賃金を減額する。ただし、1回の額が平均賃金の1日分の半額とし、総額が1ヶ月の給与総額の10分の1を限度とする。
  3. 出勤停止:〇日を限度として、出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
  4. 懲戒解雇:即時解雇する。ただし、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、本規則で定める解雇予告手当を支給しない。

 

ポイント6 賃金

 賃金(給与)は、職員にとって唯一の生活の収入源であることから最も重要な労働条件の一つです。就業規則において、賃金に関する事項は絶対的必要記載事項であり、労働基準法第89条第2号において「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」は、必ず記載しなければならない事項として定めています。

 また、賃金は、労働基準法第24条の適用を受け、臨時に支払われる賃金(賞与等)など一定のものを除いて、①通貨払い、②直接払い、③全額払い、④毎月1回以上、⑤一定の期日払い、といういわゆる「賃金支払の5原則」に基づき支払わなければなりません。

 規定を定める場合は、これらに関する法律を認識して自社の実態に合わせて定めることが必要です。

 また、賃金は労使双方の利害が直接結びつく問題であるばかりではなく、その額の決定要素(職位、能力評価等)は、労務管理面からみても職員のモチベーション、生産性にも影響するものです。従って、賃金規程の作成にあたっては、賃金体系の設計や人事制度と関連付けて慎重に規定しなければなりません。

 このように賃金の規定は、各条項について法的及び労務管理の両面から検討して作成しなければならず、条項数が多くなることもあるため、「賃金規程」または「給与規程」として、就業規則本則では委任規程を定め、別規程として定めることが望ましいです。